食道、胃、十二指腸は消化管の一部です。食道は、食べ物をのどから胃に運ぶ役割をしており、胃・十二指腸は食べ物を消化しながら小腸へ引き渡す役割をしています。
食道・胃・十二指腸の主な病気について記載します。
食道の病気
逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃液(胃酸)や胃の内容物が逆流して食道に炎症を起こし、胸やけや吞酸(どんさん:のどの辺りや口の中がすっぱく感じる状態)、胸の痛み、のどの違和感などの症状を引き起こす病気です。逆流する原因には、加齢、脂質・の取り過ぎ、肥満、姿勢などが考えられます。胃カメラで食道の粘膜を観察することで状態を確認し、治療は胃酸の分泌を抑制する薬の内服と生活習慣の改善について説明します。
食道がん
食道がんは、食道の粘膜内の細胞が悪性腫瘍(がん細胞)に変化することで生じます。初期の段階では症状を自覚することは少なく、進行してくると食べ物がのどにつかえる感じ・しみるような感じが徐々に現れてきます。
食道には、多くの血管やリンパ組織が集まっているので、食道がんを発症すると他の部位(肺・骨・脳など)に転移しやすいと報告されています。食道がんがさらに進行すると転移のリスクは高まり、症状も咳(せき)、血痰(けったん)、声がかすれる、体重減少、胸・背中の痛みなどが現れてきます。そのため早期発見することが非常に重要となり、40代後半からは定期的な検査を受けるようにお勧めしています。
食道カンジダ症
食道カンジダ症とは、カンジダという真菌(カビ)が食道内で増殖し、炎症を起こす病気です。
カンジダは通常簡単に感染するものではありませんが、糖尿病やステロイド治療などで免疫力が低下している時に感染して増殖します。ガンジダの増殖は、胃カメラを行う事で食道粘膜に白いコケのような状態で広がった状態が観察できます。自覚症状はない場合もありますが、食べ物がのどにつかえる感じやしみる感じといった症状がある場合もあります。治療は、無症状の場合は自然治癒を期待し経過観察となり、自覚症状がある場合は、抗真菌薬を内服します。
食道裂孔ヘルニア
人間の体内には胸腔と腹腔を上下に区分けしている横隔膜があり、その中には大動脈、大静脈、食道をそれぞれ貫通している孔(裂孔)があります。この食道の裂孔を通って、胃の一部が腹腔側から胸腔側に飛び出した状態を食道裂孔ヘルニアと言います。
原因としては、加齢で裂肛がゆがんでしまったり、肥満・姿勢や喘息などの影響で腹部に圧力がかかることだと考えられています。自覚症状がない場合は経過観察で問題ありませんが、逆流性食道炎を併発した場合は、薬物療法が必要となります。また、症状の程度がひどい場合は、食道裂孔ヘルニアに対して手術治療することもあります。
胃・十二指腸の病気
萎縮性胃炎
萎縮性胃炎は、長期間に渡り胃の粘膜が炎症を起こし、徐々に萎縮していく病気です。萎縮性胃炎の原因はほとんどヘリコバクター・ピロリ菌の感染と報告されています。
症状としては、胃粘膜の萎縮により胃の活動が妨げられるために、胸やけ、胃もたれ、腹満感、食欲不振などがあります。胃カメラを行うことで、萎縮性胃炎かどうかを判断します。ピロリ菌感染が確認された場合は除菌治療を行います
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染や解熱鎮痛薬(NSAIDs)の服用などが原因で胃や十二指腸の粘膜が弱って胃液(胃酸)によって傷つけられ発症します。
症状としては、腹部・みぞおちの痛み、胸やけ、腹満感、食欲不振などがあり、また潰瘍部分から出血があると、吐血や黒色便などの症状があります。
治療の流れとしては、胃カメラで潰瘍の状態を観察して、胃酸の分泌を抑制する薬・粘膜を修復する薬を内服します。ピロリ菌感染が確認された場合は、除菌治療も行います。
胃がん
胃がんは、胃にできた悪性腫瘍(がん細胞)のことです。胃がんは、男女ともに発症数がいまだに多いです(下表参照)。
胃がんも初期段階では自覚症状はほとんどなく、進行して胸の痛み、腹満感、食欲不振など胃潰瘍・十二指腸潰瘍と似た症状で、胃カメラを行った際に発見されることも少なくありません。そのため、早期発見のためには定期的な検査が必要になります。
がん死亡予測(2017年)
男女計 | 男性 | 女性 | |||
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部位 | 死亡数 | 部位 | 死亡数 | 部位 | 死亡数 |
全がん | 378,000 | 全がん | 222,000 | 全がん | 156,000 |
肺 | 78,000 | 肺 | 55,600 | 大腸 | 24,700 |
大腸 | 53,000 | 胃 | 31,000 | 肺 | 22,400 |
胃 | 47,400 | 大腸 | 28,300 | 膵臓 | 16,900 |
膵臓 | 34,100 | 肝臓 | 17,900 | 胃 | 16,400 |
肝臓 | 27,500 | 膵臓 | 17,100 | 乳房 | 14,400 |
※参照:国立がん研究センター がん情報サービスより
胃ポリープ
胃のポリープは、胃粘膜の一部が隆起してできるイボ状のできものです。胃にできるポリープは、胃底腺ポリープと過形成ポリープがほとんどです。
胃底腺ポリープ
ポリープの色調は周囲の粘膜と類似しており、小さな半球状の形をしています。ピロリ菌に感染していない健康な胃粘膜に多発することが多いと報告されています。がん化する可能性はほとんどなく、経過観察でよいポリープです。
過形成ポリープ
表面が赤く光沢のあるポリープで、表面に凹凸がみられることがあります。ポリープのサイズが大きいと出血や貧血の原因になったり、がんを合併することがあります。過形成ポリープはピロリ菌感染が原因と考えられておりますので、ピロリ菌感染が確認されればまずは除菌を行います(除菌でポリープが縮小することがあります)。内視鏡切除の適応となることもあります。
胃粘膜下腫瘍
胃粘膜下腫瘍は、胃の粘膜よりも下の深層に発生する腫瘍のことです。多くの場合、自覚症状はないので、健康診断や胃カメラなどで偶然発見されます。サイズが小さければ経過観察となりますが、サイズが2cmを超える場合や増大傾向があれば超音波内視鏡などで精査する必要があります。
急性胃粘膜病変
急性胃粘膜病変とは、胃粘膜にびらんや潰瘍、出血などがみられる急性胃炎・急性胃潰瘍の総称です。当然、激しい胸やみぞおちの痛み、吐き気、嘔吐、吐血などの症状が強く現れます。
原因は、アルコール・刺激物の過剰摂取、精神的・肉体的なストレス(過労)、解熱鎮痛薬などの副作用、アニサキスなどの寄生虫感染などが考えられます。胃カメラで観察することで診断が可能で、原因が特定できた場合はそれを取り除きます。その後は粘膜の状態が軽度であれば、胃酸の分泌を抑制する薬・粘膜を修復する薬を内服して経過観察します。胃粘膜の状態の程度がひどい場合は、入院治療が必要になることもあります。
胃アニサキス症
アニサキスとは寄生虫の一種で、アジ、サバ、カツオ、サケ、イカ、サンマなどの魚介類に寄生しております。この寄生虫が胃の粘膜に噛み付くことで強烈なみぞおちの痛み、吐き気・嘔吐などの症状が起こります。これを胃アニサキス症と言います。治療方法は、胃カメラで胃粘膜に噛み付いたアニサキスの除去を行います。痛みが強いので、できるだけ早急に診察を受け治療を受けることをお勧めします。